相手にとってわかりやすい言葉で伝えることの意味について考える。

公開日: 2011/08/10 MSW 読書記録

「相手の立場に立ってモノゴトを考えなさい」

小学校以来、学校などでずっと聞かされてきたこの言葉。

この仕事をしていると、日々、「クライエントである患者さん家族の立場に立って、その人たちが置かれている状況をイメージして関わりなさい」なんて指導を受けたりもするのですが、ま、それができたら苦労しないですし、70、80歳の人生の大先輩を前に「アナタの置かれている現在をイメージしながら関わらせていただきます」なんて心底本気で思っている「だけ」のソーシャルワーカーがいたとしたら、個人的には好きになれないと思います(笑



ただの自己満足の域を出ない具体的なプランの伴わない理想っていうのは、その人にとってしか意味を持たないので、無害なのですが、患者さん家族にとっては「有益」でもないのですよね。

「相手の視点に立って物事を考える」という目標を行動に落とし込むための一番簡単で確実な方法は、「常に相手にとってわかりやすい言葉選びを意識し、日々実践すること」だと私は考えています。

制度の説明ひとつをとっても「同じ制度」を「同じように利用可能な状況」にある患者さんであっても、その説明をする際に選択するべき言葉や説明の仕方は「同じようにはいかない」「同じようにいくはずがない」というのは頭ではわかっていても、それを実行に移すとなるとそれなりのトレーニングが必要になります。(参照:伝える側と聞く側の間に生じる前提条件について)


まずは制度をしっかりと理解しよう

まず第一に「制度に対する正確な理解」が必要なのは言うまでもありません。
単体の制度自体の理解はもちろんのこと、その制度がどのような根拠法に基づくのか、ということを知っているとなお、単体の制度を構造的に理解した上で、その制度の活用をお手伝いできるようになります。


考えるクセをつけよう

これは、トレーニングのひとつでもあるのですが、制度でもなんでも、ひとつの制度や文章について「どのような言い換えができるか」「どのような表現を用いれば、より説明を聞く相手がイメージをし易くなるか」ということを考えながら、というか考える癖をつけながら、日々の仕事をしていくことが、「相手の視点に立って物事を考える」という目標を行動に落とし込むための一番簡単で確実な方法である「常に相手にとってわかりやすい言葉選びを意識し、日々実践すること」に繋がるのだと考えています。


例えば、高額療養費の還付について

「高額療養費というものが還付されます。」

「月額医療費の上限額を超えて支払った分が戻ってきます。」

「年齢と所得によって月額医療費の上限額が決められていて、それを超えた場合は超えた分の医療費が戻ってきます。」

etc…

考えれば、いくつでも表現の仕方はあるでしょうし、説明の仕方について、図や表を用いたりすることも考えられるでしょう。

表現方法やセンテンスのパターンをいくつか用意しておくというトレーニングを重ねることで、いざ本番で相手が「?」という反応をした際に、その人の反応をヒントに、違うパターンのセンテンスで伝えるというシフトチェンジが可能になります。


相手が採用している評価の尺度を尊重する

「常に相手にとってわかりやすい言葉選びを意識し、日々実践すること」
そういった姿勢や態度は、ノンバーバルなメッセージとして相手に伝わります。

「相手にとってわかりやすい」というのは「絶対的評価」のないものです。
「相手」が変われば、「わかりやすい」という評価において採用される尺度は変わります。

常に相手にとってわかりやすい言葉選びを意識し、日々実践すること」
その継続された行為自体が、相手が採用している評価の尺度を尊重することに繋がるのだと思っています。



「相手の立場に立ってモノゴトを考えなさい」というのは完全には無理な話だけれども

誰しもが、それを完全に成すことが無理だとわかっているからこそ、それを目指すための行為が、自分に向けられていると感じることができたときに、「自分が尊重されている」と感じることができるのだと思います。

患者さん家族との関わりにおける全てのプロセスにおいて、「常に相手にとってわかりやすい言葉選びを意識し、日々実践すること」を貫くことは、結果として、患者さん家族に対して「あなたを尊重しています」というメッセージを全身で発信していくことになるのだと思っています。


もちろん、メッセージを発していくことが目的の全てではありませんが、継続した行為としての関わりの中で、そういったメッセージを発信し続けることが、信頼関係を築くための一助となり、そして「常に相手にとってわかりやすい言葉選びを意識し、実践する」ということは、言い換えれば、相手の些細な変化について、キャッチし見逃さないというソーシャルワーカーとしての皮膚感覚を育てていくということにもなるのだと思っています。


日頃の業務から課題を見つけて、その課題に対して具体的な行動変容のプランまで落とし込んでいく、っていうことをすればするほど、仕事って楽しくなるものです。日々のルーチンに流されず、自分の仕事をチェックしながら、進化の歩を進めていきたいものです。


【参考書籍など】


とりあえず書いてみる。アウトプットしてみることから、はじめてみたい方におすすめの一冊。内容はともかくまずは自分の中にある表現を書くことができる力を身につけるためのヒントが書かれている読み易い一冊です。


完全ビジネスマン向け。知的労働を生業にする人に必要な、論理的な思考から導かれる問題解決までの道のりをきちんと「書くことができる」ためのトレーニングについて知るための一冊。最初の一冊として手に取るには少し難解な部分があるかもしれません。



学部時代に卒論を書く際にお世話になった一冊です。過去に読書記録にて紹介しましたおすすめの一冊です。



【こちらもどうぞ】
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