伝える側と聞く側の間に生じる前提条件について

公開日: 2010/12/04 MSW 思索

とあることについて知っている側が、それを知らない側に話を伝える際に気をつけるべきことについて少し記しておこうと思います。おそらく1年目のソーシャルワーカーのほとんどは、患者さん家族に対して自分優位で説明をしてしまうことが多いように思います。もちろん自分もそうでした。


自分優位で話を進めてしまうのは、伝える側と聞く側の間に生じるとある前提条件への理解ができていないから、ただそれだけのことです。以下の話は実習にくる学生さんにロールプレイを実習の終盤にしてもらう際の振り返り時にお伝えしていることです。


少しイメージをしてみれば明らかですが、とあることについて知っている人が、そのことについて知らない人に物事を伝える際、


伝える側は、話の終着点がわかった上で話をしています。
(このことについては、こういった道筋となり、このような結論になるという地図を持っています)


聞く側には話の終着点はわかりません。
(地図を持っていません)


伝える側は、終着駅に到着するまでにいくつの駅に止まるかを知っています。(話を理解する上でのキーがいくつかを知っているので、それを説明します)


聞く側は、いくつの駅に止まるのかは知りません。
(話を理解する上でのキーがいくつかわからないので、その都度聞かれる言葉に留意しなければなりません)


という前提条件があるなかで、物事を伝えるのだ、ということをきちんと理解したうえで話ができるようになると、きちんと目の前にいる人の理解の反応を確かめながら、話を進めていけるようになります。




物事を伝えるさいに、最初に目的地とおおまかな路線図を明確にした上で、話を始めるということは相手への物事の伝わり方にも影響します。例えば、


「100万円も医療費がかかるって聞いたんですけど…そんなに払えないし、どうしよう」


という患者さんに対して、
「高額療養費という制度が使えますので、まずは…」と話を始めるのは、前提条件を理解していない証拠です。聞く側は高額療養費という言葉自体を初めて聞くかもしれません。


しかし、初めて聞く制度に対して、その概要も示されないまま、説明に入られても、聞く側は「何が重要なキーワードなのか」と迷ってしまいます。




それでは、「100万円も医療費がかかるって聞いたんですけど…そんなに払えないし、どうしよう」という患者さんに対して、「実際に負担していただく額はそれよりもずっと安価なんですよ。理由は・・・」というように話をはじめてみるとどうでしょうか。




「100万円も医療費がかかるって聞いたんですけど…そんなに払えないし、どうしよう」
という文脈に対してソーシャルワーカーが行うべきは




「100万円も医療費がかかる」→この事実を訂正する作業。
「そんなに払えない。どうしよう(困った)」→とりあえずの不安を解消する作業




ということになるかと思います。




高額療養費という制度の内容や、申請方法などの詳細は必ず伝えなければならない事項なわけで


伝える側(ソーシャルワーカー)が、聞く側(患者さん)に「まず最初に」伝えるべき、手当てすべきなのは「そんなに払えない。どうしよう(困った)という不安」なわけです。


話の終着点も路線図も明示されないまま話をされた場合、聞く側は最後の最後になってようやく、「自分が100万円負担しなくてもいいことがわかる」わけです。なんてナンセンス!


それに加えて、話の中に出てくる言葉のどれがキーワードなのかがわからないため、たくさんのことを記憶したりメモしたりしなければならなくなってしまうわけです。実習に来ている学生さんにロールプレイをしてもらうと、必ず最初はこうなります。




話の冒頭に、実際は100万円を負担する必要がないこと(話の終着点)を明示することで、聞く側のとりあえずの不安は解消されるでしょう。


とりあえずの不安が解消されれば、「100万円を負担する必要がない」という終着点について、どのような道筋を辿る必要があるのかということを落ち着いて話を聞くことが出来ます。


よく考えれば当たり前のことなのですが、そのことに気づかないとそのような前提条件について留意することができません。


自分が知らないことの説明を受ける際に、どのような伝え方をしてもらえたら理解がしやすいか、ということを体験するのは、自分が知らないことを、それについて詳しい人に尋ねるのが一番です。




話を聞いてみて、理解できなければ「なぜ理解できなかったのか」を確認していく作業をしてみれば、上記の前提条件について身を持って理解できるのではと思います。




今年も実習生が来ました。
2名はMSWとして就職が決まったとのこと。同業者として非常に嬉しく思う今日この頃なのでした。




注釈(同業者以外の方へ)
(実際、医療費については課税所得や年齢によって、月の上限額が定められていて、医療保険外の治療、個室代などを除けば、月の自己負担額が100万円を超えるということはほとんどありません。)




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