面接【値踏みされる時間への気づき】

公開日: 2011/05/09 MSW 読書記録

ソーシャルワーカーが、クライアントとの間に援助関係を築いていく上で、必ず通らなければならない、「値踏みされる時間」ということについて、記していこうと思います。


新人時代、面接に入る度に患者さん家族を目の前にして、怖い。恐れ多い。申し訳ない、と思っていました。大学を卒業式したばかりの若造が、専門家として、人生の先輩の生活上の問題の相談にのるということが、とうてい無理なことだとわかってはいても、面接の場面では誰も助けてはくれません。

ちょびっとだけ詰め込んだだけの知識しかない自分に何ができるのかがいつもわからず、怖くて、申し訳なくて、知っている制度の情報提供に終始し、インテーク面接で情報を教えてもらっても、それが患者さん患者の問題解決に、これからの生活にどう役立つものとして返して行けるかもわからず、アセスメントってなんだ?という日々でした。

ですが、クライアントである患者さん家族から値踏みされる時間があることに気付けことが、「援助関係というものは、ソーシャルワーカーとクライアントとの協働作業の上に築いていくものなのだ」ということに気付くきっかけとなりました。

そのことに気付いてから、患者さん家族家族はみな、目の前にいる若造が、自分の生活上の問題を話すに値する人間かどうか、ということを、意識、無意識にせよ、値踏みしているのだ、ということを前提としてインテーク面接に入っていけるようになりました。


例えばの話ですが、自分がショッピング売場でモノを売る店員だとしたとき、お客さんに接客する際、お客さんは接客をしてくれる店員のどんなところを見るでしょうか?

マニュアル通りの対応はもしかしたら、お客の側に、あなたは自分にとって数多くの客のひとりでしかない、という無言のメッセージを送ることになるかもしれません。(個別化して対応してくれているかどうか)

自分が知りたいことをキチンと教えてくれるかどうか(その物事に対する専門知識を有しているかどうか)をみているかもしれません。

商品に対する専門用語を連発されても、その知識さえないので、なんのことだかさっぱりわかっていないかもしれません。(情報の非対称性という前提を考慮した上でコミニュケーションを図ろうとしているかどうか)

とりあえず売れればいい。(こちら側の利益を優先するという意思が透けて見えてしまう)

などなど。自分が日常生活において経済活動を行なう際にも、それを介してくれる人が、信頼に値するかどうかを多かれ少なかれ値踏みしているのだと思うのです。


ソーシャルワーカーはクライアントの言葉、表情、声の大きさ、トーン、雰囲気、服装などの、ノンバーバルなメッセージからを読み取る、などとよく言いますが、きっと、同じようにクライアントである患者さん家族も、ソーシャルワーカーを見て、感じて、その人がどんな人かを推測して、「この人は少しでも信頼できそうか」ということを値踏みしていることを忘れないでいたいと思います。

ひとりの人間を、ソーシャルワークの援助の対象とした瞬間に、生活者であるその人は「クライアント」と定義され、その定義により、他者とのコミニュケーションにおける基本的で当たり前な物事が、専門用語に置き換えられる、(まずはクライアントとのラポール形成を、というふうに語られるように)というのは、あまり好ましくないことのように思うのです。

まずはソーシャルワーカーとして、「クライアントとのラポール形成が大切」と言葉にする前に、人と人の間に築かれる信頼関係というものが、日常生活において他者とコミニュケーションをする際に、どのような要素によって形成されたり、深まったり、はたまた崩れたりするのか、ということを考えてみることは、最低限自分に課すべきことであるのかなと個人的には思っています。

そうでないと、援助関係における信頼関係の構築と、日常生活圏における他者との信頼関係の構築との違いを、自分の中で整理することができないと思うのです。

「対人援助職とクライアント間の援助関係における信頼関係の構築」
「日常生活圏における他者との信頼関係の構築」

上記の二者の間には、明確な差異があります。

自身の中でそれを整理するための簡単なトレーニングとして、例えば、「自分が親や恋人や友人を信頼している、と感じるとき、その理由はどんなものがあるか」ということと「世間一般で専門職と呼ばれる人に対して、信頼していると感じるとき、その理由はどんなものがあるか」ということを書き出して、比較してみるといいかもしれません。

世に出ている教科書や、書籍は上記のようなことは教えてくれません。だから自分で考えて、気付くしかないのです。

「クライアントとの間にラポール(信頼関係)を築く」

この一文は、対人援助職につく人全てが、実践に引き付けた言葉で語れなくてはならない一文だと思います。

精神科医の熊倉信宏氏の著書「面接法」にこんな一節があります。

一人の平凡な人間が、専門家であると名乗って、もう一人の人間の相談に乗ること。それが面接者の仕事である。

本当に重く思慮深い一言であると思います。

「まずは信頼関係が大事だ」と言葉にするとき、はて、なぜ信頼関係が大事で、その信頼関係はどのように築かれ、育まれていくものなのか?という言葉をきちんと持つことが出来るソーシャルワーカーでありたいと思います。

そして、私にとっては、そのことを考える入り口となったのが、値踏みされる時間への気付きだったのです。値踏みされる時間への気付きにより、自分の面接への臨み方にどのような変化があったということについてはまた別エントリーで記そうと思います。

ソーシャルワーカーなら誰でも、クライアントとの間に信頼関係を築く、という言葉を考えるきっかけとなったもの、経験が必ずあると思います。

自分もそうですが、多くの同業者の方たちには、新人時代のその経験を出発点として、大切に熟成させていくことを忘れないでいてほしいと思います。






【こちらもどうぞ】
Blogエントリ目次:当Blogのエントリをカテゴリ別にまとめました。
「ソーシャルワーク言語化のススメ」:メールマガジン刊行中です。
Social Workers Books Store:ソーシャルワークに関する書籍をあつめました。

  • ?±??G???g???[?d????u?b?N?}?[?N???A