ソーシャルワーク実践を、伝承可能な言語に昇華させるために

公開日: 2011/01/22 MSW 研修 読書記録

奥川幸子さんの著作「身体知と言語」を読んだときに初めて感じた「ソーシャルワーカーの実践を伝承可能な言語に昇華させなければならない」という危機感は、初めて読んでから2年以上経った今でも自分の中に常に存在しています。
私が現時点で考える、ソーシャルワーカーの実践を伝承可能な言語に昇華させること、について少し記しておこうと思います。


昨年、とある大規模なソーシャルワーカーの研修に参加をしました。
講師の先生方は、ソーシャルワーカーとして現場で働いている方、大学で教えている方など、そうそうたる顔ぶれでした。熱のこもった話、実際にご自身の勤務先での実践など、刺激的な講義がとても多く、ソーシャルワーカーとして成長していきたいという気持ちに火をつけてくれる研修でした。


それと同時に、ソーシャルワークの実践を純度の高い言語に昇華させ、後進に「伝承可能な技術」を伝えていくことの難しさを感じることとなりました。



講師の方の多くは「実践に、感情や想いを乗せて放つ」ということに長けている方は多かったですが、それは、あくまで、聴く側の感情に働きかけてくるところが多く、やる気や感情に火をつけることには有意かもしれませんが、結局は、ストーリーテラー(お話の上手な方)から脱せられていないのではないか、という疑問を持ったのも事実でした。

それが意図されたものかどうかはわかりませんでしたが、当時3年目だった自分にはそう感じられました。



例えば、講師の方たちが話す対象が、一般の市民の方や、ソーシャルワーカーを目指す学生たちであれば、聴く側の感情に働きかける「お話し上手な話し方」で、その役割は十分に果たせるのかもしれませんが、対象となるのが現任の経験年数の浅いソーシャルワーカーである場合、「実践を、後進たちへ伝達可能なものとして伝える」という役割を果たすためには、「お話上手な話し方」では不十分だと思うのです。


講師の方の中で、自身の実践を伝える対象となるソーシャルワーカーたちのキャリア年数、推測されるであろう直面している課題などを、「アセスメント」し、その上で「伝えるべきこと」を講義の中で伝えている講師の方は、私が感じる限りたったお一人でした。現任のMSWの方でした。



その方の講義内容は


与えられたテーマについて言語化する作業→二人ひと組のペアでの振り返り→講師からの「考え方のフレームの一例」の提示。


その流れを、90分の中で、数回繰り返す、というものでした。


その内容には、自身の実践の振り返り方、言語化し、持ち物化する際のフレームを体感し、応用可能なものとするためのヒントを受講者各位に持って帰ってもらいたい、という意図が感じられました。

その講師の方は、ご自身の実践がああだったこうだったということは一切語らず、長年の経験から抽出し、一般化したテーマを、受講者のソーシャルワーカーたちに言語化させ、気づきを与え、得たばかりの気づきを、同じくらいの経験年数の同業者と共に振り返らせ、その場で生じたごちゃごちゃした気づきたちに、講師からそれらを整理するための「考え方のフレームの一例」を提示する。(ヒントを提示する)

というような、脱経験化された、経験から抽出した、伝承可能な言語を用いて、話をされていると私は理解したのです。


その以降、その方の投稿論文等をいくつか読ませていただきましたが、上記で記したような意図がところどころにあることに気づきました。その講師の方に教えていただいた、短時間でインとアウトを出し入れし、持ち物化する、という手法は、日々の実践の振り返りをするさいにとても役に立っています。



講師の方たちの話は、現場の貴重な話を含め、示唆的で、やる気には火をつけてくれましたが、講師が10人いる中で、「ソーシャルワーカーとして後進を育てていくためには、実践を、後進たちがその時点で理解可能なものとして言語化して伝えることが必要だ」という明確な意図を感じ取れたのはたった一人でした。



対人援助職の技術の継承においては、各々が後進へ伝達すべきものを言語化できるレベルで有していかなければ、という危機感が非常に薄いように感じます。

そういった現状を通り越し、医療機関に属するソーシャルワーカーたちが、医療チームの成熟を語らなければならないことに、もどかしさを感じます。

なにかおかしくないか?
前提条件を自分たちソーシャルワーカーは満たせているか?
そのような問いに、正直自分自身は胸を張って「YES」と答えられません。



非常に偉そうなことを書きましたが、自分を含め若いソーシャルワーカーたちが、その危機感を感じ、ソーシャルワークを実践していかなければ、日本のソーシャルワーカーが世間一般に専門職として認められ、社会に位置づくことは難しいのかもしれないと感じています。



「やれ、自己満足的な論文しかり、ストーリーテラーから脱せられない人しかり、自身の実践を言語化し、後進へ伝承可能なものへ昇華する術を持っていないなんて、恥ずかしくないのか?」


奥川さんの本の中には、暗にそのようなメッセージが込められているように感じたのです。


とりあえずは、10年目までには、何らかの答えを有していられるように、必死こいて、惰性で仕事をすることがないように、自分に渇を入れ、同じような価値観を有するソーシャルワーカーたちと切磋琢磨し、ソーシャルワーカーの未来を明るいものにしていきたいのです。



さて、頑張るぞ!!







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