ソーシャルワーカーとして生産性をあげることの限界と構造的問題について考える

公開日: 2014/06/01 MSW 教育 業務改善 思索




前回のエントリソーシャルワーカーとして”生産性を上げる”という意識を持とう!にひとつ付け加えておきたいことがある。


それは、「プレイヤー個人の能力の問題と、構造的な問題とを分けて考える」ということ。



いくら生産性をあげても、プレイヤー個人の能力の範疇でどうにかなる範囲には限度がある。

例えば、厚労省のデータを参照すると、生活保護課のケースワーカー1人当たりの受け持ち世帯数は、(市)で92.9世帯  (都道府県)で66.1世帯 (平成21年10月1日現在)だ。


私は急性期医療機関のソーシャルワーカーだが、せいぜい多くて30件ほどだ。
(多くの急性期医療機関の中でも恵まれているほうだろう。1カ所目の勤務先も急性期病院であったが40ケースほどであった。)

業務内容の違いはあるので、数のみで一概に比較はできないが、1人で90ケースを担当しているという現状は、構造的に、1人のケースワーカーに負担が過多であることが容易に想像できる。


構造的な問題については、組織内、業界内の仕組みを変えなければどうしようもならないので、プレイヤーではなく、マネージャーや管理部門の仕事になる。


マネージャーについては先日のエントリソーシャルワークの「現場教育と研究」についての雑感において、以下のように記した。


この領域において、プレイヤーからマネージャーに移行する際の必要な考え方とかスキルとか、そういったことが研修レベルで語られることはないし、そこに問題意識を抱いている人間も少ない。 

そして、うまくマネージャーに移行できたソーシャルワーカーは、その移行期に何が大切で、どういったスキルが求められたかを言語化しないし(できる人は少ないと想像する)、その反面、若くしてプレイヤー&マネージャー(多くはプレイングマネージャー)の役割を課されたソーシャルワーカーは、目の前のことで精一杯だ。 

マネージャーとしてのスキルがなければ、部下を動かし結果を出すことは難しいだろうし、部下が結果を出すための環境設定(資源を獲得するための、組織内での交渉や、立ち回り、力動を見極めるスキル等)ができなければ、マネージャーとしての機能は果たせていないことになる。

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プレイヤー思考だけでは自分の能力だけにフォーカスしてしまい、他者や所属組織に対してどのように戦略的に、戦術を実行し、構造的問題に対して働きかけ、変えていくかということは当然難しいし、それはマネージャーの仕事になる。




マネージャーは部署内の業務量に対してマンパワーが足りないと判断すれば、「増員」のオファーを組織上層部に出す訳だが、この流れは、マネージャーとしてのスキルや経験が無いと難しいと想像するし、ソーシャルワーク業界はマネージャー研修等も無く、マネージャーレベルのナレッジが、より共有されてないから尚更だ。



このあたりの構造的問題について、どうやって手を付けていけばいいのだろうと、いちプレイヤーとして、そして今後、援助者を後方支援する立ち位置に立つ身として考えている。



プレイヤー、マネージャー、両方のレイヤーで必要とされる基礎体力的な物事の捉え方の枠組みとスキルは、ある程度体系化できると信じているし半ば確信たるものもある。そういうことを汎化して、多くの援助者の人たちに活用可能なレベルに落とし込むにはどうしたらいいかと考え続けている。


私はサラリーマンとして、マネージャーとしての経験は無い。
だが、「マネージ」される側の立場から想像することはできる。


前回のエントリを書いてから、プレイヤーからマネージャーへの移行についての論文や書籍を少し探してみた。近々別エントリで紹介する予定だったのだが、以下、東大の中原淳准教授の著作、駆け出しマネジャーの成長論 - 7つの挑戦課題を「科学」』をお薦めしたい。





『出版社HPより以下抜粋』
「突然化」「二重化」「多様化」「煩雑化」「若年化」とよばれる5つの職場環境の変化で、いま3割の新任マネジャーはプレイヤーからの移行に「つまづく」。成果を出すためには、何を克服すべきか? 人材育成研究の知見と、マネジャーたちへの聞き取り調査をもとに「マネジャーになることの旅」をいかに乗り越えるか考える。


丁寧なインタビューから、まさに、「プレイヤーからマネージャーへの移行期」をどのように経たか、ということについてのヒントと、実務的な分類化がなされているので、ソーシャルワーカーでマネージャー業務についている方にとっても非常に有用な一冊だと思う。

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「志してこの業界に入った人たちが誇りをもって仕事を続け、成長していける環境」というのは、「食べて、笑って、寝る」という”生きる”の上に成り立つ持続可能性のある仕組みを準備することだと私は思う。



どこか一部に負荷がかかり続ける仕組みというのは創成期から破綻を運命付けられているわけで、であるとしたら、負荷さえも生態系に組み入れ、要素化できるような、エコシステムをつくるしかないのだという暫定的な結論に行き着くも、解像度がまだまだ低すぎて、今のわたしには未だ思考がすすめられずにいる。



問題意識は、その問題を解決に向かわせるための源泉だ。


だから、「なんとなくスルー」はできないし、したくない。
抱いた問題意識は決して離さず、世に何かを問うための”重し”として腹の底に落としておく。その負荷に耐えきれず、腹から地面に突き落とされない限り。


そんな初夏。


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