商業化された「自分探し」

公開日: 2011/07/06 キャリアデザイン 思索 読書記録

医療ソーシャルワーカーの求人が出てくるのは夏以降が多いです。
自分の就職活動も夏からが本番でした。就職活動について3年前に記したエントリについて、これから就職活動がはじまる学生さんへ向けて、そして当時の自分自身の考え、疑問を忘れないように転記しておこうと思います。

(以下、3年前に何処かにアップしたエントリです)




後輩が就職活動をするか、留学をするかで迷っている。
時間がたつのは早い。自分も社会人になって1年と半年が過ぎた。

就職活動といえば、「自己分析」という言葉をよく耳にする。
自分の適性等に自分で気づき分析する、それを以てして業種・職種にあてはめていく
自己分析、企業分析はセットで語られる。要はマッチングなのだろうか。
自分のしたいことが、その会社でできるか?それを考える上で自己分析と企業分析は欠かせないという。


キャリアデザイン
キャリア教育
キャリア支援

就職活動において、キャリアについて語られる言葉は多い。大学におけるキャリア教育も、最近よく語られる。最近読んだ職業・キャリアについて書かれた本の中で、「学生の就職活動・キャリア支援」について書かれていた印象的なフレーズを抜き出してみた。

  「大学は職業構造の変動について情報を提供してくれない」
「自分たちに必要とされる職業能力をつけさせるといった教育体制も構築していない」 
「仕事は人生のエンジン。社会人としての一歩を踏み出すためにあたって仮に専門性の低い仕事だとしても、取り組むべきものははっきりすべき」 
「キャリア=職業的生き様」 
「人は職業をどう生き、職業は人々の生活の中でどう位置付けられるのか」 
「生き方を描く中に、職業を組み込めていない」 
「働き方と生き方に繋がりをつけるのがキャリアデザイン」 
「職業を決めることと人生で何を実現したいかはセットで考える必要がある」 
「私たちの行動はすべて社会的行為」 
「人は社会の一員。社会というセーフティネットによって生存を保障され、同時に社会の存続と発展を支えている」 



自分の就職活動を思い出してみる。医療福祉系の就職活動開始時期は一般企業に比べ、遅い。初めて受けた病院は大学4年の夏だった。一般企業志望の学生は、遅くとも4年の春には内定を得て、「社会人予備軍」となっていく。一人で数社の内定を得る「就職活動の勝ち組」なんてのもいると聞く。


一般企業への就職を決めていく同期の中において、「就職活動」という言葉を無視できなくなっていた大学4年の頃、学生の就職支援や、キャリア支援(と企業は銘打っていたが、いまだにこの意味がわからない)を行う企業の存在を耳にすることがよくあった。当時、その響きに、おもしろそうだな、と思ったのだけれども、一般企業の就職活動は行う予定はなかったし、他にもおもしろそうなことはたくさんあったので結局は自分が参加することはなかった。


今当時を振り返ってみると、学生に対する「キャリア支援」とは何だろうかという疑問が湧き起こる。キャリアが職業的生き様であり、働き方と生き方に繋がりをつけるのがキャリアデザインだとしたら、生き方、つまりは「自分がどんな生き方をしたいか」ということに対し、ある程度の道筋を得ることができていなければ、キャリアはデザインできないし、そもそもキャリア支援とは、「自分がどんな生き方をしたいか」ということを模索するための支援、「自分探し」の支援と言っても語弊は無いように思う。


「自分がどんな生き方をしたいか」
「その中で職業はどんな位置を占めるか」

社会に出る一歩手前。そういったことを考える時間が大学生活という、学部によってはモラトリアムの境地ともいえる時期なのだと思う。



「プレゼンテーション能力」は就職活動を行う学生に求められる基本的なスキルのひとつらしい。記憶に残っている大学で行われた就職セミナーの話をひとつ。

講堂の壇上の上に、無作為に4人の学生が呼ばれ、就職支援を行っている企業の人と模擬面接をするという場面があった。面接官がした質問はひとつ。

「あなたが大学生活で打ち込んだことは何ですか。そこから何を得ましたか」
という大学入試の面接にもありそうな典型的な質問だった。

4人の話す言葉には、歴然とした差があった。

「私はサークル活動に打ち込みました」
「私はアルバイトに打ち込みました」
「私は…」


「とても貴重な経験となりました。」
「忍耐力がつきました。」
「夢や希望を得ることができました。」


一言で言えば、「自分の言葉で表現する」ということは思っている以上に難しい、ということを見せつけられた気がした。夢とか希望とか、誰もが簡単に口に出来るけれども、その言葉が持つ意味は大きく広い。だからこそ、そこに自分の経験や想いを盛り込むことができなければ、ただのつまらない話で終わってしまう。今風に言えば「オチのない話」


「何に打ち込み、そこから何を得たか」


唯一無二の自身の経験や想い・考えを、適切な言葉で、感情を乗せて表現することができる力は、社会人に必要なスキル、と位置付けられ、当り前のように語られる。何処からか借りてきた既製品の言葉たちは、自分たちよりも人生経験のあるオトナたちには通用しない。就職活動でその事実に初めて気づく人たちも多いのだと思う。


就職に関するセミナー・研修など、自己研鑽を目的にしたワークショップ。学生向けのキャリア支援と呼ばれるものは多い。
社会構造が複雑化して、職業の分化が進んだということで、冒頭にあげた、「大学は職業構造の変動について情報を提供してくれない」「自分たちに必要とされる職業能力をつけさせるといった教育体制も構築していない」ということに対するニーズが大学内では満たせず、そのニーズを充足する機関が外部化した結果でもあるのだと思う。


企業が学生に対するキャリア支援を行う。つまりは、生き方をも含めたキャリアデザイン、つまりは「自分探し」が商業化してきているのだと思う。

自分が社会で何を成し得たいのか。どんな生き方をしたいのか。その上で職業はどんな位置を占めるのか、という「自分のしたい生き方=ビジョン」ありきではなく、それよりもまず、「社会で必要とされるスキル」「社会人になるために身につけなければならないスキル」に捉われ、「自分は何がしたいのか」「なぜ働くのか」「なぜこの仕事なのか」という動機は、商業化している自分探しの波に飲み込まれ、薄れ、そして気がつくと、自己分析をし、エントリーシートの書き方を研究し、就職活動という戦場に送りだされる社会人予備軍となっていく。


もちろん、立派なビジョンを持ち、自身が描く理想を体現するために歩んでいく力のある学生もたくさんいるだろうけれど、「自分を探すことのできる力」、つまりは「自身でキャリアをデザインしていける力」を持つ学生と、そうではない学生、二極化が進んでいるように思う。


企業がそこに属す個人を守ってくれる時代は終わり、成果型の社会にシフトしてきている。与えられた場で、「このレールに乗っていれば大丈夫ですよ」という、キャリアさえも企業が用意してくれる時代は終わった。
学歴が立派でも、頭が良くても、能動的にキャリアをデザインしていけなければ、今の時代を生き抜いていけない。そんな社会的な風潮が、生まれて初めて社会の窓に触れる、就職活動を始めた学生に容赦なくぶち当たる。


「自分らしく生きるためのプログラム」とか、「キャリア支援」とか。
そういった自己を高め、キャリアをデザインする方法を与えてくれるかのような宣伝文句は、学生にとって、魅力のある響きに違いない。

そういった社会の流れのすべてを否定するつもりはないけれど、でも、疑問を抱く。
「社会で必要とされるスキル」「社会人になるために身につけなければならないスキル」とは、誰が決めたものなのだろう。それは自身のビジョン・理想をもとに、自分自身で考え、導き出した「必要なスキル」「身につけなければならないスキル」なのだろうか。押し付けられたものではないだろうか。


選択しているようで、「選択させられている」そのことに気付いているだろうか。
商業化された「自分探しの場」は、既に、誰かしらの意思がそこに介在している。
つまりは、選んでいるようで「選ばされている」という可能性があるということを理解した上で、自分探しの場を、有効に利用すべきだと思う。


自分で考え、自分で得たものと、誰かに与えられたもの。
その区別をきちんとすることができるだろうか。


 選び取っていると思うものの中でも「選び取らされている」ものは多い。
専門的な学問を学び、脂の乗った大学3年の後期から、足並み揃えて就職活動をはじめる。
自分らしさを探す過程を通して、自分に自信を得る。
就職活動を生き抜くために、必要な自信を得る場を「設定してもらい」「与えてもらう」
それが、商業化された「自分探し」


これから就職活動を行う学生に問うてみたい。
「なぜその職業につきたいのか」


そして、今働いている社会人の考えも聞いてみたい。
「なぜその職業なのか」


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ということを就職して1年半後(約3年前)に書いていたようです。
まぁ、上記について今の自分として思うところは多々ありますが、学生さんにより近い(卒後1年半)の時期に自分が考えていたことを忘れないように、アップをしておこうと思います。




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