現代の貧困問題を読み解くキーワード
最近、働いてはいるものの貯蓄が出来ずアパートが借りられないという患者さんを担当しました。
「カプセルホテルの宿泊代、毎日の食事代で消えていくお金。働いて稼ぐのはその日を生き抜くための食いぶちであり、低賃金であるため貯蓄が出来ず、敷金礼金などの初期費用が払えずアパートが借りられない。」とその方は言いました。
医療ソーシャルワーカーの多くが、「医療費の心配がある」という相談を受けたことがあるかと思います。個人の医療費の問題が辿りつくとところに社会の「現代の貧困問題」があるように思います。本エントリでは、現代の貧困問題を読み解くキーワードについて、書籍を紹介しながら私の知る範囲内で記していこうと思います。
貧困には、経済的貧困、人間関係の貧困があると言われています。
NHKスペシャル「ワーキングプア-働いても働いても豊かになれない-」の放送にて市民権を得た「ワークングプア」という概念。
働いても働いても貧困から抜け出すことができないワーキングプアへの処方箋として、最低限の収入を国が補償する「ベーシックインカム論」
NKHスペシャル「無縁社会-新たな繋がりを求めて-」にて人間関係の貧困を露わにした「無縁社会」というキーワード。
そして、上記に加え、住まいの貧困を表す「ハウジングプア」という言葉があります。
ハウジングプア…「貧困ゆえに居住権が侵害されやすい環境で起居せざるをえない状態」(引用:自立支援サポートセンター・もやいの代表理事である稲葉剛氏の著作「ハウジングプア」より)
「貧困ゆえに居住権が侵害されやすい環境で起居せざるをえない状態」というのは、路上生活のみではなく、ネットカフェ難民やカプセルホテルなどを転々とする状態も含みます。
そして、ハウジングプア状態にある人を食い物にする「貧困ビジネス」の存在。
「生活保護の申請を手伝い、住まいを提供してあげる」と声をかけ、自らの施設に連れていき、生活保護費をピンはねし、劣悪な環境で住まわせる。「逃げたらどこまでも追いかけてお前を殺す」などと脅す。
路上生活者に声をかけ、生活保護を申請させて、病院に入院させ、いくつかの病院がグルになり、一人の人間を数か所の病院でたらいまわしにし、いくつもの偽病名をつけ、診療報酬をだましとる。
etc・・・
「貧困」をくいものにして、汚い金を稼ぐという現実が、当たり前のように起きているのです。
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人の生活は、経済的安定、人間関係のネットワーク、住まいの安定、という3つの土台に支えられているのだと思います。
衣食住に困らない収入があり、自分を助けてくれる人たちがいて、安心して眠れる住まいがある。これは憲法25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」に通ずるのだと思います。
ソーシャルワーカーが出会う患者さん家族の多くは、上記の3つの土台のどれかが不安定な方がほとんどです。そして、3つの土台が不安定な状態に、「病気」が大きな衝撃を与えると、より一層、生活が不安定な方向に傾いてしまう可能性が高いのです。
「社会正義と権利擁護を基盤としたソーシャルワーク」とよく言いますが、「権利を擁護する」ということは、「権利を行使できる社会をつくっていく」ということでもあるのだと思っています。ですから、「貧困」はソーシャルワーカーたちにとって、闘うべき「現実」であることは間違いありません。
ケースワークの母であるメアリー・リッチモンドが記した「社会診断」では、貧困を貧困者の道徳的要因に主眼を置くのではなく、貧困問題からみえてくる社会的な困難と、そこから生じる社会的な要求について把握していくことに主眼を置きました。
いつの時代のソーシャルワーカーも、クライエントの背中にその時代の不条理さを見ていたはずです。その不条理さを、どのようにして社会に還元できるものにしていくかを考えていかなければいかないのだと思います。
ソーシャルワークと貧困問題は切っても切れない関係なのです。
今、自分たちが生きる世の中の構造が生んでいる貧困について、きちんと知っておくことはとても大切なことだと思っています。
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