上野先生、勝手に死なれちゃ困ります 僕らの介護不安に答えてください (Books)

公開日: 2012/04/19 勝手にブックレビュー


今回の勝手にブックレビューでは『上野先生、勝手に死なれちゃ困ります 僕らの介護不安に答えてください (光文社新書)』著:上野千鶴子氏、古市憲寿氏を紹介します。


「おひとりさまの老後」で有名な東大教授の上野千鶴子氏と、「希望難民ご一行様」「絶望の国の幸福な若者たち」の著者、新進気鋭の社会学者古市憲寿氏。(最近はNHKNEWSWEB24の月曜担当ネットナビゲーターとしてもご活躍中)の対談形式の共著。


単なる世代間格差論で終わっちゃうツマラナイものでは決して無く、思考のエッセンスが散りばめられていておすすめの一冊です。


第7章の第一節の「社会貢献意識と自分の社会と繋がらない若者」が学生時代の自分や友人たちの文脈をまさに評していてなるほどなーと思ったので、自身の経験も関連づけて記しておこうと思います。



『「社会の役に立ちたい」という思いは、カンボジアや被災地に対しては向けられるけれど、肝心の自分たちの集団には向かない。外部に対して手を差し伸べようっていう動きにはなるんだけれど、自分たちの足もとの社会を変えよう、という動きにはならない』(P206) 


と古市氏が述べたのに対し、上野氏は


「不安はあるが不満はない若者の現状を反映しているのかもしれない。」つまりは「遠隔シンボル(例:カンボジアや被災地)によって現実逃避する」と述べ、高齢社会では近い将来誰もが社会的弱者になるかもしれないというわかりきったシュミレーションのできない「その日暮らしのメンタリティ」 

と評しています。


「不安はあるが不満は無い」「遠隔シンボルによって現実逃避している」っていうのは、なかなかどうしてその通りだと思うのです。




私は学生時分、病院でボランティア団体を立ち上げるということを経験しましたが、そのときのメンタリティはおそらく「不安はあるが不満は無い」「遠隔シンボルによって現実逃避している」ということに加えて「当事者性」を加えることでおそらく説明できるのかなとこの一節を読み思ったのです。




「当事者性」を帯びることで、「遠隔シンボルによって現実逃避している」という文脈の「遠隔」の精神的距離を狭めていたのだろう、と7年経った今、客観的に評することができます。これは良いことでも悪いことでもなく、ただ、そうであったという主観的事実のみが存在していればそれでよいことであると思うのですが。


『「社会の役に立ちたい」という思いは、カンボジアや被災地に対しては向けられるけれど、肝心の自分たちの集団には向かない。外部に対して手を差し伸べようっていう動きにはなるんだけれど、自分たちの足もとの社会を変えよう、という動きにはならない』

不安はあるが不満はない若者の現状を反映しているのかもしれない。」つまりは「遠隔シンボル(例:カンボジアや被災地)によって現実逃避する」と述べ、高齢社会では近い将来誰もが社会的弱者になるかもしれないというわかりきったシュミレーションのできない「その日暮らしのメンタリティ」


私個人としては、ボランティア団体を立ち上げ活動するに至ったプロセスを上記文脈と照らし合わせたとき、


『行為に「当事者性」が加わったからこそ「自らの問題を引き受ける」という「行為の社会化」が成されているのだから「遠隔シンボルによって現実逃避をする」ということとは一線を画す 』


と反論をぶつけることができるかと言われたら、それもまたNoだなーと思うのです。


それは、私にとっての「当事者性」は「機会不平等、自己肯定感、言葉」という自身の価値観を語る上でのキーワードが複雑に混在しており、「完全なる行為の社会化」には成り得ない。つまりは、ウェーバー、パーソンズたちがいう、純粋なる社会的行為(social action )とは言えなかったのだという結論に帰するのだと考えています。(参照:想像力不足を援助者が期待するストーリーで埋めるということについて考える)


そのことに学生時分に気づいていたら、おそらく俗にいうアイデンティティクライシスにやられてしまっていたに違いないのですが(笑)、


今自身がコミットしている活動について、自身のどんな思いや考えからそこに参画しているのか、ということを改めて考えてみる上でのヒントを本書から得てみてもいいのではないかなーと思います。








【光文社HPより抜粋】

ベストセラー『おひとりさまの老後』を残して、この春、東大を退職した上野千鶴子・東大元教授。帯の名文句「これで安心して死ねるかしら」に対して、残された教え子・古市憲寿が待ったをかける。

親の老いや介護に不安を覚え始めた若者世代は、いくら親が勝手に死ねると思っていても、いざとなったら関与せずにはすまない。さらに少子高齢化社会で、団塊世代による負の遺産を手渡されると感じている子世代の先行きは、この上なく不透明。だとすれば、僕たちが今からできる心構えを、教えてほしい――と。

これに対し、「あなたたちの不安を分節しましょう。それは親世代の介護の不安なの? それとも自分たち世代の将来の不安なの?」と切り返す上野。話は介護の実際的な問題へのアドバイスから、親子関係の分析、世代間格差の問題、共同体や運動の可能性etc.へと突き進む。30歳以上歳の離れた2人の社会学者の対話をきっかけに、若者の将来、この国の「老後」を考える試み。

目次
上野先生、勝手に死なないでください!(古市から上野先生への手紙)
この本の読み方
第1章 何が不安なのか、わからない、という不安
第2章 介護という未知のゾーンへの不安
第3章 介護保険って何?
第4章 それより自分たちのこれからのほうが不安だった
第5章 少子化で先細りという不安
第6章 若者に不安がない、という不安
第7章 不安を見つめ、弱さを認めることからはじまる
古市くんへ(あとがきに代えて 上野からの返信)

著者紹介
上野千鶴子(うえのちづこ)
1948年富山県生まれ。東京大学名誉教授。東京大学大学院教授を2011年退職。NPO法人WAN理事長。長年、日本における女性学・ジェンダー研究のパイオニアとして活躍。近年は介護とケアの領域へと研究範囲を拡大。著書に『家父長制と資本制』『近代家族の成立と終焉』(以上、岩波書店)、『おひとりさまの老後』(法研)、『ケアの社会学』(太田出版)など多数。

古市憲寿(ふるいちのりとし)
1985年東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所訪問研究員(上席)。有限会社ゼント執行役。専攻は社会学。著書に『希望難民ご一行様』(光文社新書)、『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)、『遠足型消費の時代』(共著、朝日新書)。


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