ソーシャルワーク業界という職能共同体に必要なもの

公開日: 2013/09/17 MSW SCA キャリアデザイン 思索


ここ最近、内田樹氏の著作「先生はえらい」、「内田樹による内田樹」(自著の解説本)の2冊を読んでいて、ソーシャルワーク業界の「教育」について、色々と思うことがあった。本エントリでは、「ソーシャルワーク業界という職能共同体に必要なもの」と題し、以下、思うところを記してみようと思う。


1.ソーシャルワーク業界を「共同体」と見なすことの意味




「教育は共同体の存続のためにある」と内田樹氏は著書「先生はえらい」の中で言っている。

著作「先生はえらい」を2年前に読んだ時、私はそれを「師弟論」として読み解こうとした。最近、本書を改めて読み返し、「教育は共同体の存続のためにある」という言葉から、職業の存亡においても「教育」が必要だという「職能共同体」論を新たに得た。


ソーシャルワーカー業界をひとつの「共同体」と見なすと、「新人」は「過去のわたし」であり、「バーンアウトして業界を去った人」は、「そうなっていたかもしれないわたし」である。だとしたら、その共同体を存続させるために何が必要か、今の自分が何をすべきか、が見えてくるように思う。


「教育は共同体の存続のためにある」は、「職能共同体存続のためには、教育が必要だ」と読み替えられる。


だが、専門職と呼ばれる職域における教育が、一般的な教育と異なるのは、OJT(On The Job Training)に依拠する所が多いというところだ。だからこそ、現場の人間の多くを「教える側」に立たせる「場」や「機能」をつくる必要があるのだと、私は考えた。


2.「教える・教えを請う」というシステムが生み出すもの


学生は、現場1年目の人間の話を「この人から学ぶことがある」と聞く。現場1年目は3年目の話を「この人から盗めるものがあるだろう」と聞く。これは、「教える・伝える」側に一度でも立ったことがあれば、体感的にわかる。それは、「教える」「教えを請う」という場の装置が、そうさせるものだからだ。


「この学びはいくらです」というパッケージ&商業化された学びと異なり、「今、自分が現場で生き抜いていくために必要な学び」を得ようとおもうとき、「この学びはいくらだ」という価値判断は登場しない。「生き抜くために必要な学び」を自分の目と耳で定め、掻き分けながら、探す。


だから、教えを請う側は、真剣になるし、その真剣さにうたれ、教える側も「今、自分が伝えられると想定されること以上のもの」、つまりは、「昨日までの自分では言葉にできなかったことを言葉にできる」ということを経験する。「教える・教えを請う」という装置は、両者にとってものすごい価値を生む。


自分の経験を振り返ると、学生の頃、気遣っていただいたソーシャルワーカーの方々は、当時現場7年目の方々だった。学生の問いに対し、真摯に言葉を紡ぎながらこたえてくれた記憶は、今でもはっきりと思い出せる。予定調和ではない「面前で紡がれる言葉たち」から、何かを学ばねばと必死にさせられた。


教える・伝える側の現場の人間にとっての利について。たとえ同じ内容の話だとしても、1回目と2回目では、「伝えられること」は必ず変化する。時間と経験が加わり、既存の「伝えることのできるコンテンツ」は、アップデートされる。「あのときは語ることができなかったことが、語れるようになる」


これは「経験の語り直し」でもあり、(「過去の経験」+「時間」+「新たに得た経験」)×(他者に語る)=”過去の経験から新たに得られた知見”を生み出せる。この構造を何処かにもっていないと「過去の経験」は閉じられた自分だけの所有物と化し、新しい知見は得られず、他者との共有も難しくなる。


3.若手ソーシャルワーカーが「教える」側に立つことが、この業界の未来にもたらすもの


私は、「師弟論」と、「職能共同体論」という2つの観点から、ソーシャルワークの業界に「教える・教えを請う」場、装置、機能をつくる必要があると考えている。


既存の学会等には、「教える・教えを請う」機能は存在しない。なので、既存のスーパーバイズの機能と場を現任者は活用すべきだと考えている。それに加え、私は、若手のソーシャルワーカーたちに「教える」側に立つことで、得られる価値に気づいてほしいし、それは早ければ早いほどいいと考える。


若手ソーシャルワーカーがどんどん「教える」側に立ち、「教える・教えを請う」という機能がもつ価値を得てほしい。そして、それを自身の現場・所属組織で活かしてほしい。


前述した「教える・教えを請う」場、装置、機能を人為的につくってしまう、というのがこの試みだ→11/16(土)『教える・伝える技術を磨きたい若手ソーシャルワーカーのための実践知プレゼンテーション大会』 @新宿を開催いたします。



「伝える・教える」という役割を得た若手のソーシャルワーカーたちが、増えていけば、今後彼ら彼女らが、所属組織における「ポスト」に即かれたときに、活きてくると考えているし、そうなった時期に、この業界はもっとおもしろくなると私は信じて疑わない。


自分が育ててもらった業界に対して、今の自分の手持ちの資源で、どういった還元ができるかということを考えることは、業界に長く身を置く者としての責務だと私は考える。


だが、還元することで、それ以上のなにかを自分が得ているという感覚があるのもまた確かである。現任者各々が、日々、真摯に現場で実践をする中で得られたものを、業界全体としての利に昇華させるために、できることを、できる形で、やっていければいい。


そう、心から思っている。




内田樹氏が、自著について語った一冊。「先生はえらい」の解説もあり。


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