医療現場からみた”日本の貧困”

公開日: 2014/06/25 MSW 社会問題 勝手にブックレビュー 読書記録


患者さんが救急入院してくる際(ときに救急に限らず)、患者さん本人からの訴え、もしくは種々の理由で経済的に医療費の支払困難が予想される場合、医療ソーシャルワーカーが介入し、区役所との間に立ち、生活保護の申請相談をすることも多いです。

ネットカフェやサウナで寝泊まりしながら派遣労働を続け、体調を崩し、でも保険に加入していないため、受診を控え仕事を続け、職場やネットカフェ、サウナ等で倒れて救急搬送される患者さんに、出会う人数は年々増えていると感じます。

去年「”生活問題”対処の最後の砦としての急性期病院に勤務するソーシャルワーカーとして思うこと」というエントリを書いて、急性期病院勤務のMSWが関わるケースの多くは、「生命の危機→救命→生活問題の噴出→生活問題への初期対処→生活の再設計」を辿ると書きました。





人の生活は、経済的安定、人間関係のネットワーク、住まいの安定、という3つの土台に支えられています。(http://wish0517.blogspot.jp/2011/07/blog-post.html

・日常生活を送るに不自由ない収入・財産【経済的安定】
・家族や友人や会社の人などの人間関係【人間関係のネットワーク】
・安心して寝起きのできる住まい【住まいの安定】
   

そして、最小単位の組織としての家族【家族というセーフティネット】
3つの土台が不安定な状態に、「病気」が大きな衝撃を与えると、より一層、生活が不安定な方向に傾いてしまう可能性が高くなります。


セーフティネットは、雇用セーフティネット、社会保険セーフティネット、公的扶助セーフティネットに分かれますが、契約書も交わしておらず、雇用保険も未加入、健康保険にも未加入で、日雇い健保等の情報も教えられていない、という人も少なくないです。

先に述べた「生命の危機→救命→生活問題の噴出→生活問題への初期対処→生活の再設計」の流れの「生命の危機」以前においては、患者さんの生活歴を聞いていると、「雇用セーフティネット、社会保険セーフティネット、公的扶助セーフティネット」からこぼれ落ちてくる過程が見て取れます。


病気や怪我等、生活問題発生→ソーシャルキャピタル・家族というセーフティネットが脆弱・存在しない→問題の長期化→雇用セーフティネット、社会保険セーフティネット、公的扶助セーフティネットから”も”こぼれ落ちる→さらに長期化し諸々の問題が堆積する→生命の危機→救命(医療機関)→生活問題の噴出→生活問題への初期対処(MSW介入)→生活の再設計


医療機関で提供できるソーシャルワークは、どうして対処療法的で、受動的なものになってしまう、と常々感じます。


入院を機に生活保護の申請相談を援助したケースの統計を取れば、最後の砦である公的扶助のネットにかかるわけなので当然、前述した【経済的安定】、【人間関係のネットワーク】、【住まいの安定】、「家族、雇用、社会保険」セーフティネットからこぼれ落ちていることが明らかになるのは容易に想像できるのですが、それでもなお急性期病院のソーシャルワーカーたちが全国で「入院を機に生活保護の申請相談を援助したケースの統計」をとり、それをエビデンスに何かしらアクションをおこすこともできそうだなと思うのです。


「日本の貧困」は年越し派遣村で広く知られるようになった湯浅誠氏(NPOもやいでも有名です)によって、社会問題化しました。


『医療現場からみた”日本の貧困”』とでも銘打ち、日本MSW協会と大手新聞社もしくはNHKとでタイアップして、連載記事にして、まとめて一冊の本にするとか。そういうアクションありだと思うのですが。

命に近い現場でソーシャルワーク実践をおこなう医療ソーシャルワーカーたちの多くは、逆算思考で、命の危機に至るまでの経過を想像し、「なんでこうなるまで放っておいたんだ…」、「命の危機に瀕するよりもっと上流で何かしらのサポートに出会っていたなら…」と感じているのだと思います。


命の危機に瀕しても、その人自身に十分なサポート(湯浅さんはこれを"溜(ため)”と言いました)が既にあれば、ソーシャルワーカーに出会うことは少ない。


援助者として目の前の困難さに”燃える”という特性は否定しませんが、でも、その”燃える”要素を生み出しているもの自体が、社会の不条理なシステムであれば、そのシステムへの眼差しと、声をあげることもまた、同じくらい”燃えねば”ならないことなのだと思うのです。


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