豊かさの精神病理(Books)

公開日: 2012/04/25 勝手にブックレビュー

本日は「豊かさの精神病理」を紹介します。著者は精神科医の大平健氏。

学生時代に初めて読み、未だに手元においてある一冊です。

1990年に初版が出たのですが、まさにバブル真っ盛りのご時世に、精神科の臨床場面にて出会ったとある共通項を持った人々を<モノ語りの人々>と称し、「豊かさの精神病理」について多様なエピソードを交えて書かれています。

以下、序章から引用します。

<モノ語りの人々>

(よろず相談の患者)の相談にのるコツは、悩みの背後にある人とのつき合いを巡る課題ないし葛藤を見出すことにあります。しかし、中にはそれが困難な例があります。いくら手をかえ品をかえて尋ねても、人とのつき合いがどのようなものなのかさっぱり見えてこないのです。 
そういう例に数多く出会ううちに、そういう人たちにはひとつの特徴があることがわかりました。自分についてであれ他人についてであれ人そのものを描写し説明するのが苦手なのです。(中略)
モノを媒介にすると雄弁になる人びとですから、<モノ語り>の人びとと名づけておきましょう。<モノ語り>の<患者>の話を理解するにはモノの知識が必要です。(中略) 
僕が<モノ知り>になると<モノ語り>の<患者>の話を理解することは、とても容易になりました。精神科医としてこんなに嬉しいことはありません。 
ところで、<モノ語り>の<患者>の話を聞けば聞くほど、僕には「モノの溢れる」と形容される今の日本のある側面が少しずつ見えて来るように思えました。今、他人事のように言いましたが、<モノ語り>の<患者>置かれている状況は、モノに無縁に暮らして来たはずの僕にも深く関係しているのでした。(中略) 
本書は、精神科医にとって新しい<よろず相談>の患者の中の<モノ語り>型の人びとについての報告書です。
(P8-11) 


発刊されてから20年以上経過しているので、世間一般の価値観の変遷を考えると、「ああ、バブルの頃の話ね」と言ってしまえばそれまでなのですが、著者の大平氏が、精神科医として臨床場面で対峙してきた患者の語りの数々には、 「なぜ、人びとは自分の身の回りの物事をモノ化して(モノを媒介として)語るのか」について知り得るには、充分過ぎるエピソードが詰まっているように感じました。


「臨床場面における患者の語りたちから、その時代を切り取る」


というようなメッセージを本書から感じました。


大平健氏は、他にも著書を出されています。
また機会があれば本レビューでも紹介させていただきたいなと思っています。




【目次】
序章 「モノ語り」の人びと
第1章 カタログ時代のパーソナリティ
第2章 グルメ・ブームの精神病理
第3章 不倫ゲームの構造
第4章 ペットの両義性
第5章 「幸せ」に似合う家族
第6章 豊かさの精神病理
終章 ジャパニーズ・ドリーム



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