『職業としてのソーシャルワーカーの社会的意義と、その発信・伝達』発題内容詳細<2015年10月31(土)・11/1(日)第45回全国社会福祉教育セミナー2015>

公開日: 2015/12/14 SCA 教育







2015年10月31(土)・11/1(日)開催
第45回全国社会福祉教育セミナー2015@同志社大学今出川キャンパスにて、発題させていただいた内容について転記いたします。


『ソーシャルアクション・社会変革と社会福祉教育』
発題KeyWords
・あるべきソーシャルワーカーの立ち位置、アクションと教育・福祉業界への注文
藤田孝典(再掲)
・職業としてのソーシャルワーカーの社会的意義と、その発信・伝達
横山北斗(NPO法人Social Change Agency代表、社会福祉士)
<コーディネーター>
小山隆(同志社大学教授)


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<目次>
①職業としてのソーシャルワーカーの社会的意義とは
⑴ソーシャルワーカーを志した理由
⑵ソーシャルアクションの原体験
⑶ソーシャルワーカーの社会的意義とは


②NPO法人を立ち上げるに至った理由と経緯
⑴仲間のバーンアウトによる離職
⑵「社会(ソーシャル)」とは何なのか?という問い
⑶組織にいるからこそできること、できないことがあるのだという気づき


③ソーシャルワークの社会的意義を社会に発信・伝達するためにできること
⑴なぜ、なぜソーシャルワークの社会的意義を発信・伝達することが必要なのか?
⑵法人としてこの2年間でおこなった発信に関する施策について
⑶.「業界全体として」ソーシャルワーカーの社会的意義を社会へ発信・伝達するために
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①職業としてのソーシャルワーカーの社会的意義とは


⑴ソーシャルワーカーを志した理由


まずは簡単に自己紹介をさせていただきたいと思います。
私は大学卒業後、病院のソーシャルワーカーとして勤務しておりました。
元々、宇宙工学を専攻していたのですが、自分自身が中学生の頃、血液疾患を患い、大学1年のときに同じ病気の方々が集うセルフヘルプグループに参加しました。そして、そこで出会った、財団のソーシャルワーカーの方から影響を受けて、ソーシャルワークの世界に身を投じる事に決めた、という経緯があります。

⑵ソーシャルアクションの原体験


福祉系の大学に編入後、県立の小児専門病院にて、入院中のお子さんのきょうだいのお子さんを学生がお預かりし保育をするボランティア団体を設立し、活動を開始しました。


福祉系大学へ編入学後、なにかしら病気の子どもと家族に関わる活動をしたいと思っていましたが、当時、授業で、「感染症予防等の理由で、小児病棟には幼い子どもが入ることができないので、面会できないきょうだいたちは親と離れ、病棟の外で待っている」という話を聞きました。


そのとき、自身が入院してた頃を思い出すとともに、5年が経った今も、社会が変わっていないことに疑問を覚えると同時に、「学生たちで、病棟の外で待たざるを得ないきょうだいのお子さんをお預かりし、遊び相手になれないか?」と、そんな着想を得ました。アイデアと想いだけではなく、まずはニーズを把握しなければいけないと思い、難病のお子さんの親子キャンプに参加させていただき、親御さんたちからも「それは必要だ。助かるよ」という言葉をいただき、想いは確信に変わりました。


その後、病院の窓を叩くとともに、大学の先生後押しも得て、活動場所が決定し、当時の看護師長さんもきょうだいのお子さんへのサポートの必要性を感じており、病院側もチラシをつくって広報をしてくださったり、病棟保育士さんが、子どもとの接し方を学ぶために企画した研修に協力してくださる等、活動を積極的にサポートしてくださいました。
『ボク、病院に来てるけど、病気じゃないんだ。』と言ったきょうだいの子の言葉が耳に残っています。親御さんからは「こういった活動があって本当に助かる」と活動を重宝していただきました。
活動は、当時、NHKや全国紙に取り上げられ、他病院でもきょうだい保育ボランティア団体を立ち上げたいという話をいただいたりしました。

⑶ソーシャルワーカーの社会的意義とは


私はこの活動を通して、目の前にいる方へのサポートと社会問題の発信は両輪で行う必要があるということを学びました。


なぜなら、たとえ、新しい社会資源を生み出したとしても、それを広めるためにあらゆる手立てを為すことをしなければ、支えることができる人の数は増えず、そしてまずなによりも、困りごとを生み出している社会構造に働きかけることができなければクライアントは再生産され続けるからです。
そのことを実感として得ることができた学生時代の活動は、私にとってのソーシャルアクションの原体験として深く根付いています。


ソーシャルワーカーは困難を抱えたクライアントと出会い、ソーシャルワーカーはクライアントとの関わりを通して、今、社会に存在する問題・不条理さを知ります。
クライアントの背中にある、社会に存在する問題・不条理さを知ることのできる位置にいるソーシャルワーカーであるからこそ、社会を変えていくために発信、行動を、ソーシャルアクションを行っていかねばならないと強く感じています。

②NPO法人を立ち上げるに至った理由と経緯


大学卒業後は医療機関に就職しました。2013年に任意団体を立ち上げ、その団体を2015年にNPO法人化したのですが、入職して以降、自身の能力的な課題と共に、以下のような経験、問題意識を得る中で、疑問は膨らんでいきました。


⑴仲間のバーンアウトによる離職


私が法人を仲間たちと立ち上げるに至ったひとつの理由は、現場2年目のときに、
懇意にしていたMSWの仲間がバーンアウトによって現場を去った、という経験をしたことでした。


彼の職場は俗にいうソーシャルワークをさせてもらえない環境にありました。
上司もいない、患者さんのネームバンドを作ったり等、雑用掃き溜め場のような部署でした。彼が辞めたあとも、その病院は、新人の方が入っては出てを少なくとも当時3年間は繰り返していました。
かたや私は先輩に恵まれ、大事にされ、キャリアをスタートさせることができていました。彼と私を分けたのはたったひとつ、「置かれた環境」でした。


結果の全てを、個人の能力やセンスで語ってしまうのは、楽なことです。
なぜなら、自分にとって関与できないことは、イコール「他人事」にしてしまえるからです。
「あいつが現場から去ったのは自分には関係ない」本当にそうでしょうか?私はそうは思えないのです。


クライエントの方、同僚や上司、組織に迷惑をかけながらも育ててもらったという自覚があるのであれば、そして、自分が今現在、少し余力があるのであれば、それを業界全体に還元するということを考えてほしいと強く願います。


どんなに優れたソーシャルワーカーであったとしても、ひとりのソーシャルワーカーで支えられる人の数には限界があります。より多くのクライエントを支えたいと思うのであれば、自分の横に立ち、共にクライエントを支え合える仲間を増やしていくという選択肢が必然的に生まれてくるはずです。自分の横で共にクライエントを支える人たちを増やし、そして支える側に立つソーシャルワーカーたちで支え合う、それこそが「1人でも多くのクライエントを支えるための方程式」であると私たちは考えています。


友人のバーンアウトによる離職は、「志や何かしらの熱意をもって業界に入ってくる人たちを、業種や領域に関係なく支え合う仕組みや風土ができなければ、この業界は、今後どうなるんだろうか?」と当時2年目ながら、私に強烈な危機感を与えました。


当時、職能団体の飲み会にも何回か参加しましたが、上記危機感を共有できる仲間に出会うことはできませんでした。私はそれ以降、職能団体や業界構造から離れ、業界の外から業界内をしっかりと眺めることのできる時間と力をつけようと思い、3年目以降、業界の外に出て行くようになります。


平日夜や休日は、俗にいう社会人大学に通っては、都度、ソーシャルワーカーの仕事とは?という問いに対して何度も何度も業界の外の人たちに説明する機会を得ました。マスメディアへの転職・就職を目指す人たち向けの講座に通い、言葉の力を磨くトレーニングに通ったりもしました。
その中で出会った人が、数年後、任意団体のメンバーになってくれたという幸運もありました。


そうして、1年前、改めて業界内に向けて、メッセージを送ったとき、今度は多くの仲間に出会えました。それはおそらく、一度業界の外から、業界内部を眺める時間を取ったことで、私自身が、自分が身を置く業界の問題だと考える事柄を外在化することができたからこそ、業界内部の人と共有できる言葉となり得たからなのだと考えています。

⑵「社会(ソーシャル)」とは何なのか?という問い


研修や講習会に参加するたびに思っていたのは、ソーシャルワーカーは、「社会(ソーシャル)」であるのに、「この業界は非常に閉じているなあ」ということでした。


例えば、研修内容が数年経っても変わらなかったり、イベントも業界の人だけを対象にしているものであったり、もちろん基本が重要であることはわかりますが、そもそも社会福祉は人の命や生活に広く関わるものであるはずです。


であるなら、広義の「社会福祉に関わる仕事をしている人」は、資格をもっている人だけではないですし、社会福祉業界の中の人間が、もっと業界の外の領域や職種の人たちと繋がりあっていくべきだと感じるようになりました。


社会福祉の専門家であるという気概はそれなりに大切なことかもしれませんが、その気概自体が視野を狭め、極論、「社会福祉のことは、社会福祉業界内だけでどうにかする」というようなことに繋がっているのであれば、業界全体の視野狭窄と言わざるを得ません。


「社会資源」という用語がありますが、社会がこれだけダイナミックに変化しているわけですから、社会資源をもっと広く捉え直す、つまりは、社会資源とは何かという問いをもち、自分の、自組織の社会資源をメンテナンスするという意識もまた希薄であると感じていました。


「ソーシャルワークにおける、社会(ソーシャル)」とは何なのか?という問いに対し、社会福祉業界と、業界の外の人たちをつなぐハブになれる場や組織が存在しないことに、問題意識を抱くようになります。

⑶組織にいるからこそできること、できないことがあるのだという気づき


日本で働く多くのソーシャルワーカーは、社会保障制度に位置付く組織で勤務しています。
それは言い換えれば、自分の給料がどこから出ているかということの答えでもあります。


組織に属して行うソーシャルワークは、「組織が有する機能」によって制限を受けます。
医療機関であれば、自らが属する医療機関が医療保険の中で提供できるサービス、介護保険の関連事業所であれば、介護保険の中で提供できるサービスの中で、というように、機関の機能の枠に沿った援助に留まらざるを得ないという現状があります。


独立型の社会福祉士も増えてはいますが、組織の枠を超えて稼働できるとはいえども、収益構造が既存の制度の枠に則るものであり、自身で事業化し新たな収益構造を生み出せない以上、組織に属して行われるソーシャルワークと大差はないでしょう。
このように組織の機能の枠に沿わざるを得ないソーシャルワークでは、ロビイングやソーシャルアクションを、組織の機能を枠を超えて成し得ることが難しいという側面があるのは明らかです。


ソーシャルアクションを考えるとき、この構造を抜きには何も語ることはできないということへの気づきが、各々の現場をもつソーシャルワーカーたちが、様々な当事者と共に、自組織の機能に縛られないソーシャルワークを展開できる場が必要だと思わせるようになりました。


2013年に任意団体として立ち上がった弊法人は2015年に法人格を取得しました。
現在は、「当事者と支援者協働でソーシャルアクションのおこすためのプラットフォーム」の構築を目的とし、コアメンバー4名、ボランティアスタッフ10名ほどで、イベントや研修、ネットワーキングの場作り、当事者団体の方へのヒアリング、それをもとにしたアクションの企画などを行っています。


今回頂いた「社会的意義と、その発信と伝達」というテーマについては、この2年間、法人として450人の福祉を学ぶ学生さんやソーシャルワーカーの方とのネットワークをつくり、かつ、インターネットを活用した情報発信、主にホームページや、メールマガジン[*1] の配信等を行ってきました。(現在購読者も1000名を超えました。)


このあたりが、今回のテーマをいただいたひとつの理由かと思いますので、この2年間の間に、何を考え、何を行ってきたかとお話しできればと思います。
「使えるものはしたたかに使い倒す」ことを考えやってきました。知名度もない、お金もない。そんな中で、知恵を使ってやってきた社会実験は、社会福祉業界全体で活用してもらうことで、より多くのできることが生まれるのではないかと思っています。

ソーシャルワークの社会的意義を社会に発信・伝達するためにできること


⑴なぜ、ソーシャルワークの社会的意義を発信・伝達することが必要なのか?


今回、私に頂いたお題は「ソーシャワークの社会的意義とその発信と伝達」というものでした。
そもそも、「なぜソーシャルワークの社会的意義を発信・伝達することが必要なのでしょうか?」


その前提条件を考えたとき、私は以下の3つの理由があると考えます。


・支援を必要としている人、もしくはその予備軍に情報を届ける(アウトリーチ)
・広く社会一般に、現場からみた社会保障、社会福祉の現場を伝える(アドボカシー)
・潜在的なソーシャルワーカー候補者を業界に招き入れたり、他分野・他領域の力を借りるため、興味関心をもってもらうよう働きかける


以前、某広告代理店の人から、こう、聞かれたことがありました。
「自分たちは日頃からテレビや新聞等、メディア等で福祉の問題に触れている。社会福祉の現場の人たちが社会に問題を発信していくメリットは何ですか?」と。


その人の訝しげな顔には「社会の問題については日々多様なメディア等で情報を得ている。改めて社会福祉の現場の人間が言ったことを情報として新たに受け取る必要はない」という言葉が込められているようでした。


「社会福祉の現場の人たちが社会に問題を発信していくメリット(受信者にとっての)は何ですか?」
この問いにみなさんはどうお考えになるでしょうか?


歴史の話になりますが、戦後、憲法で定める生存権のもと、社会福祉の法律は整備され、それに基づくサービス等を受けることができるようになりました。ですが、制度やサービスが存在しても、それ自体に容易にアクセスすることができなければ、本当の意味で生存権が守られていると言うことはできません。


ときに、マスメディアによる報道で、根拠のないイメージが先行し、制度やサービスを受ける人たちに対するスティグマが強まることがあります。
そんなとき、ソーシャルワーカーたちが根拠に基づく社会への発信を行うことで、スティグマが強まることを防ぐ。いや、そもそもスティグマの解消に向けて、社会への発信を続けていく必要がある、私はそう考えます。


この数年でも思い浮かぶことは数多くありました。
もちろん、すぐにスティグマの解消とまでいくことは難しいかもしれません。ですが、そのために私たち社会福祉に関わる人間たちにできることがある、という自覚をまずもつことからはじめなければならないと強く思います。


例えば、日本弁護士連合会の「生活保護の捕捉率を高め,憲法25条による生存権保障を実質化するための国の施策に関する意見書」『2014年(平成26年)6月19日』の中に、以下のような文章があります。
…………………………………………………………………………………………………………
スティグマの解消に向けて
(1) 生活保護利用者に対するスティグマ(世間から押しつけられた恥や負い目の烙印)を解消し,併せて生活保護制度に対する国民の信頼を確保するため,生活保護は,憲法25条に基づき,国による生存権保障を具体化する制度であり,何人に対しても無差別平等に,健康で文化的な最低限度の生活を権利として保障するものであることを,国民に対し,テレビ・ラジオ・インターネット・新聞・地方自治体の広報紙その他の媒体を通じて,分かりやすく,十分に広報すること。


…………………………………………………………………………………………………………


社会におけるセーフティネットの拡充とそのアクセスを容易にすることは両輪で成されるべきものです。物理的なアクセスのみではなく、個々人の精神的なアクセスのハードルを高めているのが、スティグマである以上、ソーシャルワーカーたちがそこに対してなにができるかを考えた時、やはり、社会への発信を行うべきだと思うのです。社会の問題を当事者が声を大にして叫ぶことができない状況にあるだとしたら、誰がその声を代弁するのでしょうか?答えは誰の目にも明らかなはずです。

⑵法人としてこの2年間でおこなった発信と伝達に関する施策について


ここからは、法人としてこの2年間でおこなった発信に関する施策についてお伝えをしていきます。
小手先のテクニカルな話も含まれますが、よろしけばお読みください。

・歴史を知り、時流を読むこと


戦後の社会福祉専門職教育から現代の社会起業ブームに至るまでの類似点を洗い出し、活用しました。


今の時代は、バブルがはじけて、2000年代にITバブルもはじて、社会課題をビジネスで解決など、がクールだいう時流になっている。ソーシャルビジネス、ソーシャルベンチャー、社会起業。この時流に、多くの先駆者を出してきた福祉業界は「したたかにのる」べきだと私は思います。


たとえば、MSWの先駆者の浅賀ふさ氏、(ちなみハーバード卒)も、日本社会事業大学の小川先生も、同時期に、現場、教育・研究畑にいたひとたちが、「朝日訴訟」に関わっているという事実があります。ちなみに浅賀ふさ氏は、女性運動家として母子保護法の制定に関わったり、1958年の国際社会事業会議で、「放射能と人類福祉-なぜ日本人が核兵器実験に反対するか」というテーマで発表(広島のMSWと被爆者調査をし、世界に発信した)したりしてます。浅賀ふさ氏の言葉で印象的なものをいくつか[*2]


「ケースワークは社会改善の水先案内人であり、また社会改善実施の後も、その適切なる施行の推進役をする。」
「個を対象とするケースワーカーが出会う問題の中には、多くの社会的レベルにおいて解決しなければならない問題がある。対象者の問題を顕微鏡を通して見るごとく身近に知ることができる立場にある」
「ケースワーカーこそ、社会政策への強力な発信者でなければならない」


このように、歴史からエピソードはいくらでも拾って、現代に活かすことができます。
これは福祉業界全体のブランディングとプロデュースの問題だと思っています。社会福祉業界の先駆者たちを使い倒すくらいの”したたかさ”があってもいいのでは、と思うのです。
私たちの法人は、ソーシャルベンチャーの組織形態はNPOが多いということ、つまりは、時流のきている、非営利セクターという業界に片足を突っ込んでおくことで、色々とメリットがあるだろうと思い、法人格をとりました。

・職域と資格の垣根を取り払ったこと


ネットワークをつくるにあたり、研修やイベントに「資格要件」や「領域要件」を設けず、「領域横断のネットワーク」が必要だと主張し続けました。


これは現場に出てからずっと思っていたことですが、たとえば、医療領域中でも、がん専門、緩和ケア専門、呼吸器専門など、医者が臓器専門になるように、ソーシャルワークという共通の専門性を論ぜず、領域依存の専門性もどきが語られる風潮を感じました。
ですので、領域という垣根をとっぱらうことを意識しました。これによって、さまざまな領域のソーシャルワーカーが弊法人のイベントに参加してくれたり、他業種の方や一般の方も足を運んでもらえることにつながりました。

・いい意味で「したたかに」他業種を巻き込んだこと


とにかく、自分たちの業界と異なる言語の人たちに対して、自分の業界の課題意識をぶつけ、フィードバックをもらい、ということを繰り返しました。


その過程で、外部協力者が増え、東大の工学部出身者や、他NPOセクターで働いている人に組織づくりのため加わってもらったり、福祉業界外の、組織のメンバーを迎え入れる上でもこれは活きました。社会福祉の問題は社会の問題ですから、当然、さまざまな業界と必然的につながりますし、繋がらない方がおかしいのだということにも遅ればせながら気づくことができました。

・マーケティング・ブランディングの戦略を立てたこと
①ロゴ等、デザインを重視し、「福祉っぽさ」を消したこと
②”流行り”のソーシャルベンチャー界隈のイメージを活用
③あらゆるウェブマーケティングを活用し、WEBを経て弊法人を知ってもらうための導線を設計
④プッシュ型メディアのメールマガジンの最大活用。ライター兼・広報パーソンを増やす
⑤他媒体との協働によって、情報を届けられる人たちを増やす


今の若い人や、福祉に馴染みのない一般の人に情報を届けるために、そういった人たちがどういったテイストを好み、今の時流はどんなものかということを考えました。知ってもらうこと、そして次は、興味を持ってもらうこと。この2点が通過できなければ、「伝達」にいたりません。
「知ってもらわねば考えてもらうことさえできない」ということを考えた時、興味をひくブランディング、そして、ウェブマーケティングの知識を活用することは必須でした。


今の時代、本気で何かを変えたい、何かを伝えたいと思ったら、多くの場合、必ずインターネットの力を使う、という選択肢をとります。私たちは、福祉系のキーワードを調べた際に、うちの法人を知ってもらうしかけをいくつか用意しました。


メールマガジンのライターの方も、現場のソーシャルワーカー、海外の大学院で学んでいる学生の方や、統合失調症やLGBTの当事者の方などに書き手になっていただき、学びや問題意識を共有していただいています。かつ、書き手の人が増えれば増えるほど、その方達が書いていることを宣伝をしてくださるので、結果、広報にもなるという循環が生まれています。


今後は、他の団体や企業と協働したコンテンツづくりもはじまる予定で、業界の外の人や組織と共に発信をおこなうことで、情報を届けることができる範囲が広がるということを実感しています。

・多様な「言語」を持つことと、ターゲットに合わせた言語運用の必要性を重視したこと
①届けたい人に「刺さる言葉」を都度使い分けること
②上記を効果的に行うために、他流試合を挑みまくること
③多様な言語を組織がもつためには、福祉業界外のメンバーが必要不可欠
④専門用語を極力捨てること
⑤綺麗で厳密な定義より、わかりやすい定義を用いる

専門用語をいかに使わず、対象にあった言語で、伝えたいことをつど定義するかということを、常に考えてきました。うちの法人では、一般社会にむけて、『ソーシャルアクションとは、「困りごとを抱えた人の声や状況」から課題を発見し、当事者と支援者が中心となり、困りごとの原因となる社会構造を変容することを目的としておこす行動』と定義しました。

・多様なアクターたちと「共創価値を生み出す」ことを体現する
①福祉の現場のことを福祉業界だけでなんとかしようと思うエゴを捨てる


この活動をはじめて、知り合った多くの方々に「福祉の業界って閉じられた感じがする」という言葉を投げられました。うちの法人でいえば、当事者団体、一般企業、大学(福祉系以外)、他NPO、他のWEBメディア、メタな視点でみたら、目的が共通している組織と「接点」が見いだせるのであれば、どんどんそういったところと協働していこうと思っています。

・組織外で、ソーシャルアクションのプロセスに参画できる補完的な場をつくる


ソーシャルワークはもっと自由でクリエイティブであるということを体現できる場を創ることは、特にこの業界に身を投じようと思う人たちを増やすために必要だと感じます。


かつ、多くのソーシャルワーカーの方にとって、組織に属しながら、色々なアクションのプロセスに関わっていくことができる場をたくさん生み出して、そこから様々な問題提起を社会に対しておこなっていく。これは、今後やっていきたいと思っています。


以上が弊法人がこの2年間でおこなった発信と伝達に関する施策についての一部です。
最後に、この2年間の経験を踏まえ、ソーシャルワーカーの社会的意義を社会へ発信・伝達するための策を提案させていただこうと思います。

⑶.「業界全体として」ソーシャルワーカーの社会的意義を社会へ発信・伝達するために


・業界全体としての大規模なソーシャルアクションをおこすために必要なことは何か?


社会福祉業界が、「業界団体」としてアクションを起こしていくには、まずは身内で連帯する必要があると考えます。ですから、職能団体はひとつになるべきだと思います。
職能団体の加入率が上がらないと、業界全体としての大規模なソーシャルアクションに結びつかないのであるとしたら、昨今の職能団体の加入率の低さは何が原因かということを私たち各々が考えるべきだと思います。私たちが出会ったきた、特に若手ソーシャルワーカーの多くは、職能団体に期待していないように感じます。


まずは「身内」たちで、どう連帯するか?ということを考えたとき、多くのソーシャルワーカーにとって、職能団体も、その動きもどうでもいいことだということを想像力の中に置いておく必要があるといつも思っています。(コップの中で頑張る人たちはコップの外の温度に気がつかないものです)現場が大変、自分の人生やキャリアで精一杯、そういった状態にある人にとっての「どうでもいいこと」をどう自分ごとにしてもらうか、ということは常に業界の中心にいる人たちは考えておくべきだと思います。



・業界内外に対して、業界内のキーパーソンを担ぎ上げ、広告塔として活用する


①社会福祉業界には華がなく、スターもいない?組織よりも、突出した”人”にフォーカスする
②どのような「タグ」でキーパーソンを担ぎ上げるか?
③タグで意味付けし、タグごとに、キーパーソンたちを担ぎ上げる。NewsPicks[*3] から学べること


そういった意味で、私はまずは、業界を盛り立てることが大事だと考えています。
特定の領域で突出しているソーシャルワーカーたちを担ぎ上げ、業界内、社会全体に発信していくべきだと思っています。(ソーシャルワーカーを名乗っていなくても、十分ソーシャルワークをやっている人もいますので、そういった方も含めて担ぎ上げてもよいと思います)
わかりやすい”タグ”をつけ、業界内のキーパーソンをプロデュースするという視点は、馬鹿げた意味ではなく、社会に対して、社会福祉の仕事が専門職であること、そしてこの仕事を志す学生を増やす、惹きつける上でのひとつのアイデアだと思っています。


大学の先生方も、NewsPicksのプロピッカーのように、領域ごとに論陣を張れる先生たちを担ぎ上げていくこともできると私は思っていますし、うちの法人でお金があればやりたいと思っています。
さきにもおつたえしたとり、ソーシャルベンチャーや社会起業と社会福祉業界は親和性が高いです。これは何度もいうとおり、時流を読んだ業界のプロデュース・ブランディング能力の問題だと思います。


・身内の連帯と「ソーシャルワーカーの社会的意義の発信・伝達」を同時に成すための策の提案


さいごに、業界内のソーシャルワーカーの連帯と、ソーシャルワーカーの社会的意義の発信・伝達を同時に成すためのアイデアとして、業界全体で非営利型のメディアを設立するということを提案したいと思います。


一般の人々の「生活動線」を狙い、日々触れる媒体のなかに、福祉業界が立ち上げたメディアを食い込ませていくこと、つまりは、人が毎日触れるものに潜ませることによって、社会福祉との接点を気軽に、知らぬ間に持ってもらうことができます。


内容についても、福祉に関するニュースの適切な解説、一般の人に有益な情報や、現場のソーシャルワーカーや大学の先生方が解説、発信していく場として、時間をかけて育てていく価値がある取り組みであると思います。


メディア立ち上げは一案ですが、業界が一致団結して取り組むプロジェクトができ、そのプロセスがWEBなどを活用し、発信されることで、「どうでもいい」と感じているコップの外のソーシャルワーカーたちを巻き込める余地が生まれます。自分が身を置く社会福祉業界全体が変わろうとしている、というメッセージを受けることで多くのソーシャルワーカーはエンパワメントされると私は思います。


「今後誰のために、何を目指し、そのためにどういったスパンで何をやるのか」という社会福祉業界変革のシナリオプランニングを、そして、そのプロセスが、広く、業界内外に発信することのできるたくさんの回路をもつことが、「職業としてのソーシャルワーカーの社会的意義の発信・伝達」を成すうえで必要だと思っています。


私たちの法人もさまざまな組織と繋がり合いながら、本提案に付する小さな実験を繰り返していきたいと思っています。このたびは貴重な機会をいただき、どうもありがとうございました。


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[*1] 弊法人配信「ソーシャルワークタイムズ」(2013年12月より毎週配信)
[*2] 「人物でよむ近代日本社会福祉のあゆみ」室田 保夫  (著)より

[*3](株)ユーザベース初のBtoC向けニュース共有サービス。国内外の30以上の経済系メディアの記事を表示し、ユーザーがそれにコメントを投稿、共有することができる

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