エッセイ)”機会の不平等を均す”という個人的思想について

公開日: 2014/04/01 エッセイ 思索 自分史





「やりたいことって、支えての人を支えることなんだよね」
「なんで、そんなにエネルギーを注げるの?」



10年来の友人から、今日もらったひとつの言葉と、ひとつの問い。


桜に彩られた目黒川沿いを歩きながら、ひとつの言葉と、ひとつの問いを補助線に、いろいろなことを考えた夜。



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「自分は、運がよかった、な」


そう、10年前に思った場面が、今でも克明に思い出すことができる。
その夜、自己嫌悪感に襲われ、以後、「運がよかった」と感じた自分をずっと恥じてきたように思う。今思うに、あれは、”サバイバーズギルド”のようなものだった。


そのときから、個人として成し得たいと願う思想として、「機会の不平等を均す」というものが生まれた。

21歳の頃書き残したものの中に、「運がよかった、悪かったで、全てを済ますことを自分は決して許したくはない」ということを、大学の恩師に対して口にしたという記録が残っている。

私を構成する思想の柱は、「人は危機的状況下でも、力強く変化することができる」、「機会の不平等を均す」というものから構成されている。

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対人援助職の仕事につくことが決まったとき、最初に考えたのが、この思想をどう扱うかということだった。なぜなら、この思想は、クライエントの方に対して、「リスク・フル」であるからだ。過去にそのようなことを文章にも残している。
(想像力不足を援助者が期待するストーリーで埋めるということについて考える)


自分の生育歴も含めた思想や価値観は、それに自覚的でなければ、”刃”として、クライエントの方たちを切り刻むリスクを有している、そうであるとしたら、それをどう防ぐべきか?


その結果、導きだした結論が、「自分についてのあらゆることに、自覚的であること」だった。そのために、”言葉という鎖”という概念を生み出し、自分に付する多くのことを、言葉という鎖で「捉え」、「自覚的」に取り扱う術を得ることに尽力した。


言語化は、リスクフルな身体を有する援助者としての自分が、クライエントに対して、不利益を被らせることがないようにと、採用した”防衛策”だった。


幸か不幸か、「自分についてのあらゆることに、自覚的であること」を為すために採用した”言葉という鎖”を扱えるようになればなるほど、その副産物として生まれた文章たちが、誰かのためになる、他者にとって有意なものになる、という経験をした。
これは、想像しなかったことだった。


言語化してきた文章は、目的ではなく、副産物だった。
必死に、自分をコントロールするための”言葉という鎖”の扱い方を覚え、熟達させていく過程で、出た、”しぼりかす”のようなものだ。


援助者として、現場に立ち続ける以上は、自らの思想を「どこにも照射できない」それはイコール、現場で、援助者として、決して癒されたりしてはいけない、ということと同義だった。これは、思った以上に「つらかった」のだと思う。

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「自分は運がよかった、な」と思ったあのときから、10年が経った。



今考えている「支え手たちを支える」という”支え手共同体”という構想は、「機会の不平等を均す」という思想に”直結”している。

私は、”援助者たちを下から支える共同体”と、”共同体のなかで培われたものたちを、未来に残すための器づくり”、この両者を同時代に、為し得えたい。


援助者としては、自らの思想の実現は、決して許されなかった。
だがしかし、上記は、自らの思想に直結し、ダイレクトにすべてのエネルギーを照射できる。これは永久回路のように無尽蔵にエネルギーを生み出す。


物語を語り、現実を構成する「モノガタライズ」することができる能力も自分をだいぶ助けてくれたように思う。


10年の時を経て、「機会の不平等を均す」という思想の実現に対し全力を投入できる刻が、やっと訪れたのだと思う。時が経ち、自分の能力も機会も整ってきた。


全ての枷を外し、制約を解き放ち、自由になれたとき、今以上に加速できるように思う。そして、そこで、自分は、少し、癒されてもいいのだと思っている。そう思うと、生きていくのはだいぶ楽になったと感じる。


30歳以後の人生は、”機会の不平等を均す”ための仕事に捧げよう。


今までの人生で頂いた”死してもなお返しきれない贈与”を返礼するための時間の刻み方と、楔を打ち込む意思の力と、考え続けることができる強さを纏い、成し得るべきことを成し得たい。


さあ、明日から新年度。
現場に立つことができる時間を大切に。


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