【学部論文】小児がん患者・家族に対するソーシャルワーク援助の必要性、果たすべき役割についての考察〜エンパワメント・アプローチの視点から
私が学部時代に書いた論文について、もしご興味のある方がいれば、活用いただければと考えています。内容は所詮学部なので言及はしませんが、先行研究等のまとめ集としては使いようがあるかなと自己評価しています。ご興味のある方はご連絡いただければと思います。
【題名】
小児がん患者・家族に対するソーシャルワーク援助の必要性、果たすべき役割についての考察〜エンパワメント・アプローチの視点から〜
【要旨】
近年の医療の発展は目覚しく,様々な病気が治るようになり,一昔前は不治の病であると言われた小児がんにおいても,約7割が根治をみるようになったといわれている.
治療を終え,元気に社会生活を送る子どもが増えてきた一方で,入院中・退院後において,小児がんの患者・家族が多くの心理社会的問題に直面しているという事実が,看護師や心理士による研究で明らかにされてきた.
医療機関において,患者・家族の心理社会的問題への支援を行う専門職のひとつに,医療ソーシャルワーカーの存在が挙げられる.心理社会的問題を抱えた小児がん患者・家族への支援は医療ソーシャルワーカーの業務に入るが,先行研究の数は非常に少なく,その専門性が確立されているとは言い難い.
本論文では,上記を踏まえ,前述した心理社会的問題を抱える小児がん患者・家族に対して,どのような医療ソーシャルワーク援助が考えられるかをエンパワメントアプローチの視点から考察し,その必要性を明らかにすることを試みた.
小児がん患者・家族が抱える心理社会的問題は,入院生活における不安等の心理的な問題,医療費や入院生活費などの経済的な問題,きょうだいの養育等の家族における問題,その他入院中における子どもの保育・教育を受ける権利の保障や,退院後,原疾患を抱えながら,進学,就職,結婚,妊娠・出産等のライフイベントの場面において遭遇する問題など,生活全般に渡っていたが,それら心理社会的問題に対するソーシャルサポートは非常に少ないということが明らかになった.
そして,上記,小児がん患者・家族が抱える心理社会的問題に対する医療ソーシャルワーク援助について考察を行い,「心理的不安への支援」,「当事者活動への支援」,「患者・家族の代弁(アドボケイト)」,「患者・家族と地元校・医療スタッフとの間の橋渡し役」,「ニーズの開拓」,「社会資源の開発」の6つが,医療ソーシャルワーカーに求められる役割であると結論付けた.
不治の病であった小児がんの治療成績が向上し,やがては,1千人に1人以上の小児がんを経験した成人が社会に進出するであろう事実は,医療技術の発展を示すと同時に,現疾患からくる晩期障害等の心理社会的問題を有した小児がん経験者が増える可能性があることを示唆している.小児がん患者・家族への医療ソーシャルワーク援助が専門化し,確立されていない中で,退院後,さまざまな心理社会的問題に直面している小児がん経験者への支援をどのように行っていくかが今後の課題である.
【目次】
序章.本研究について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1~3
1.研究の背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2.研究の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
3.研究の方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
4.本論文の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
Ⅰ.小児がん・医療ソーシャルワーカーについて・・・・・・・・・・・・・・・・・4~6
1.小児がんについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1)小児がんの定義
2)小児がん治療の現状
2.医療ソーシャルワーカーについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1)定義
2)誕生・歴史
3)現状
Ⅱ.現代家族の特徴・小児医療の現場におけるインフォームドコンセント・・・・・・7~9
1.現代家族の特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
2.インフォームドコンセントについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
1)インフォームドコンセントの定義
2)小児医療におけるインフォームドコンセント
Ⅲ.小児がん患者・家族が抱える心理社会的問題・・・・・・・・・・・・・・・・10~28
1.入院中 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
1)病気の受容・理解
2)子どもへの病気の説明
3)子どもが入院することによる家族の生活の変化
4)経済的な問題
5)きょうだいの養育
6)医療スタッフとのコミュニケーション
7)子どもにとっての入院生活とは
8)保育と遊びの問題
9)学校・教育の問題
10)治療開始
11)学校復帰
2.退院後 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
1)原疾患による晩期障害
2)告知の問題
3)日常生活における疾病管理
4)学校生活
5)進学・就職
6)結婚と妊娠・出産
3.本章における考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
Ⅳ.小児がん患者・家族に対する医療ソーシャルワーク援助の必要性 ・・・・・・29~48
1.エンパワメント・アプローチ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
1)エンパワメント・アプローチの前提と,その歴史
2)エンパワメントアプローチにおける「力」(パワー)の定義
2.当事者活動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
1)小児がん経験者の会
2)院内親の会
3.家族への支援 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
1)子どもが入院することによる家族の生活の変化への支援
2)きょうだいの養育への支援
3)病気の受容・理解,医療スタッフとのコミュニケーションに関しての支援
4)家族が子どもに病状を説明することへの支援
4.本人への支援 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
1)入院中に保育・遊びを受ける権利の保障
2)学校・教育に関する問題への支援
3)復学への支援
5.社会資源 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
1)患者・家族のための宿泊施設
2)経済的な制度
6.退院後の小児がん経験者が抱える心理社会的問題に対しての支援・・・・・・・・45
1)長期観察外来・長期フォローアップ外来
2)退院後,社会生活を送る小児がん経験者への医療ソーシャルワーク援助
Ⅴ.終章 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49~55
1.考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49
1)当事者活動について
2)患者本人への医療ソーシャルワーク援助について
3)家族への医療ソーシャルワーク援助について
4)ソーシャルサポートについて
2.結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52
謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
引用・参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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