【面接】ケースワークの臨床技法「援助関係」と「逆転移」の活用
公開日: 2012/05/03 MSW 思索 勝手にブックレビュー
2010年にご逝去され、尾崎氏ご本人のお話を直接聞かせていただく機会がないことが本当に残念で仕方ないです。尾崎氏の人柄、エピソードについて知るには下記リンク先の記事がよいかと思います。
「革命」を追い求めつづけ40年、立教大学教授 尾崎新(gooニュース)
わたしは、尾崎新氏と直接お会いしたことはありませんが、多くの著作を通して、教えを請うことができたと勝手に思っています。(「先生はえらい」著:内田樹氏的に)
その中でも、『ケースワークの臨床技法「援助関係」と「逆転移」の活用』はMSW6年目になった私自身にとって、この仕事を続けていく上で、乗り越えなければならない課題を突きつけてくれた本当に忘れられない1冊になりそうです。
この本を1,2年目に読んだとしても、気づけなかったであろうこと。
6年目の今だからこそ、この一冊から気づくことができたこと。
本を読むということは、間接的に、自分の変化を教えてくれる行為でもあるのだと思います。
本書は、以下三部構成になっています。
第一部 ケースワーク臨床の特質と「ほどよい援助関係」
第二部 援助関係の活用
第三部 逆転移の活用
第一部〜第二部についても、非常に学び溢れる内容になっているのですが、本エントリでは、第三部の「逆転移の活用」について本書内の記載を抜粋させていただきながら記していこうと思います。
クライエントがかつて経験した感情や経験、または自分に向けている内的感情を援助関係に投影することを、「転移」という。転移は、クライエントの対人関係の歴史や特徴、または内的感情を理解する資源であり、臨床診断や援助の方向を検討する上で貴重な資料であるといわれる。
一方、援助関係の中で、援助者に生じる感情や反応は、「逆転移(あるいは対抗転移)」と呼ばれる。逆転移には、いくつかの種類がある。まず、クライエントから受けとるさまざまな印象も逆転移である。
また、援助者がクライエントとは直接関係のない個人的感情をクライエントに向ける逆転移もある。「昔の恋人に似ているから、心惹かれる」などである。さらに、援助者の個人的な心理的・社会的欲求がクライエントに向けられることもある。
「他の援助者に、自分の援助能力を見せつけたくて、一生懸命援助する」などである。あるいは、経験不足とか知識不足のため、決定的場面で援助をどう進めればよいかを迷う感情をクライエントに向ける場合もある。
しかし、援助者はクライエントがクライエント自身に向けて発信している内的感情を逆転移というかたちで感じとる場合もある。従来、これらの逆転移は、いずれも援助関係やクライエントを混乱させるので、抑制するか制御することが望ましいとされてきた。
しかし、援助者が援助関係の中で以上のような感情をもつことは不自然ではない。「なんとかしてあげたい」「苦手だ」「できれば担当を避けたい」。このような感情を自然にもつこともあれば、そのような感情にかつて経験した人間関係や援助関係が投影されることもある。
まえがきでものべたように、援助者は援助の中で、クライエントや問題をクライエントとは異なる見方でとらえたり、問題の別の側面や現実をクライエントに伝えたりする。あるいは、クライエントの問題解決能力を別の視点から発見したりする。
これらを進める素地・出発点は援助者の感情であり、いいかえれば逆転移である。援助者がクライエントのもつさまざまな感情を受信するのは、理性や知識によってではなく、常に感情によってである。
ローゼンフェルも、援助者の感情の重要性を「逆転移はクライエントを理解する『受信器』であり」、「援助者は、自分に生じるさまざまな感情を意識化し、吟味することによって、はじめての判断や見通しをもつことができる」とのべている。こうした意味で、逆転移は活用するという視点から検討すべきである。
(P125-126)
本書の中で尾崎氏は、上記の通り、援助者に生じる逆転移を自覚し、「自己覚知」から「自己活用」へ 昇華させることが必要だと述べています。
これまで多くのケースワーク論が共通に重視してきた概念に「自己覚知」がある。スーパービジョンも、この概念を出発点としたものであり、「自己覚知」はケースワーク臨床の一つの基盤であるといわれてきた。
しかし、この概念には、不足している側面がある。援助者の個性やもち味をどのように援助関係の中で生かしたらよいかという議論が不足している。すでにのべたように、援助関係では、援助者の感情などが重要な意味をもつ。
また、感情のもち方・表現の仕方には、各援助者によって異なる個性が表れることが自然である。このような援助者の個性やもち味は、援助関係を自然なものとする上でも、逆転移を活用するためにも、生かされてよい。
尾崎氏の述べている通り、「自己覚知」という概念はどちらかというと「ニュートラル(中立)」に援助者自身を持ってくるための重要な概念として用いられているように思います。
過去の私自身のエントリもそのような視点から記しています。
(過去エントリ:自己覚知における個人的見解)
自分の陥りがちな傾向を知り、その上で、陥った場合の対応策を用意しておく。
このようなことは確かに、とても重要だとは思いますが、援助を堅苦しいガチガチなものにしてしまう危険性も有しているように思います。
そこで、尾崎氏は援助者に生じる逆転移を自覚し、「自己覚知」から「自己活用」へ 昇華させる、という視点を第三部の最終章で論じています。
その中で、尾崎氏は逆転移を意識化する過程を3つのプロセスにわけ、論じています。
(1)クライエントの立場や心情から一旦距離をとる
(2)逆転移の視点を同定する
(3)そのときの主たる感情とは違う異なる種類の視点をもつ
個々の詳細については長くなりますので、引用等は控えますが、「自己覚知」を「自己活用」へ昇華させるにあたって基本となる「逆転移を意識化する」ということは従来の「自己覚知」の概念を拡張していく視点を与えてくれるものだと思いました。
最後に、本書の最後に書かれている一文を抜粋させていただきます。
しかし、いかなる援助者も個性を活用する前に、基礎的な臨床技術や原則だけは身につける必要がある。また、援助に関する知識や価値観も、援助を進める際に前提となるものである。
これらを無視し、個性の活用ばかりに熱中したのでは、援助全体にバラつきが生まれ、公平性と均質性を維持することができない。基礎的な技術、原則、知識などを獲得するには、文献による学習や研修・スーパービジョンなどを受けるほかに、先輩などのやり方を真似て、それを取り入れる方法もあるだろう。
まずは、これらの学習が先決である。しかし、基礎的な技術や原則を一応学習したら、援助者は各々の個性や特徴に見合ったかたちで、個々にそれを応用し、発展させる。基礎的な技術などは、援助者の個性や特徴に見合った形で工夫を与えてこそ、日常の臨床の中で生かされるものである。
わたしはこの一文を若い援助者への優しい戒めの一文と受け取りました。
本当に出会えてよかったと思った一冊でした。
尾崎氏がご自身の長年の実践から得られたものたちが凝縮されていて、今後も定期的に読み返したい一冊になりました。
本書の内容、文体から、尾崎氏のソーシャルワーカーたちへの「愛」をものすごく感じました。きっと、氏と出会った人たちの多くが、救われたり、勇気づけたりされてきたのだろうなと想像をし、尾崎氏がご自身の知を著作にまとめてくださったことに感謝をするHYでした。
3年目未満の方には、ぜひ第一部から第二部を。
3年目以降の方には、特に第三部を。
6年目のHYから推薦をさせていただきます(笑
目次
第1部 ケースワーク臨床の特質と「ほどよい援助関係」
第2部 援助関係の活用
第3部 逆転移の活用
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